エンゲージメント発現の要素
Authored by 井手 寛暁, 組織開発ダイレクター, パーソルコンサルティング 中国
エンゲージメントの発現=組織・社員のお互いの要求が釣り合うこと
前回のコラムでは、エンゲージメントは組織・社員の双方向での「好き」から成り立つこと、エンゲージメント=「参加」、すなわち「自らが置かれた状況で、主体的に責任をもって、組織経営に参画する」という定義をご紹介しました。今回のコラムでは、このエンゲージメントの本質的な正体は何なのか、を見ていきます。つまり、何が成立すれば、社員が「参加」している状況を生み出せるのかを見ていきます。
エンゲージメントの「双方向性」を踏まえると、組織・社員が双方に要求をし、それが釣り合っている状態というのが、エンゲージメントの発現を成り立たせる現実的な解ではないかと考えます。論語的な理想を言えば、「信なれば立たず」でお互いの信頼関係が成り立っていることがエンゲージメント発現の根源と言いたくなりますが、そもそも信頼関係は火のない所に煙は立たぬで、何らかのインタラクションがなければ成り立つものではありません。
韓非子的に、「利があれば何人たれとも勇者となる」で、現実的にはお互いの利が合致している状態、すなわちお互いの要求が釣り合っている状態の下、エンゲージメントが成り立つのではないでしょうか。
組織・社員のお互いの要求とは?
では、お互いの要求とは何でしょうか。まず、組織の要求から見ていきます。組織から社員への要求とは、一人ひとりの仕事上の役割責任であり、その期待成果となるでしょう。一部の社員に対しては、将来の幹部候補になりうるだけの能力・経験を仕事で積上げることも要求となりうるでしょう。この仕事上の要求がクリアであることはエンゲージメント向上に対して、相関性が高い要素とも言われています。
一方で、社員から組織への要求とは何でしょうか。将来のキャリアを形作る仕事、職場における良好な人間関係、給与水準・福利厚生、働きやすい職場環境、会社による社会貢献等、様々なものがあり得ます。各個人が仕事、ひいては仕事を提供する組織に対して求めるものは個別性が高く、多様性に富んでいるのが実状ではないでしょうか。社員が組織からの要求に応えることで自らの要求とのバランスがとれるかどうかを、社員それぞれが判断し、釣り合ったところにエンゲージメントが発現する、と言ったイメージでしょうか。
社員からの要求は様々ですが、そのうち、どのような国・地域においても、エンゲージメントとの相関性が高いものは何でしょう。私個人としては、組織は仕事をする場であり、「将来のキャリアを形作る仕事」であると思い続けていました。間違いではないのですが、これは、どうも会社側の論理のようです。
エンゲージメントを高める様々な要素=アサインメント、認知・承認、裁量
社員のエンゲージメントを左右する要素については様々な調査結果がありますが、2019年にADPリサーチ・インスティテュートが世界各国で2万人程を対象に行った調査の結果をご紹介します。調査結果ではエンゲージメントを向上させる要素として、いくつかのキーファクターが紹介されています。「自身の業務上の役割がクリアである」、「強みを活かした業務遂行ができる」、「一社員としてケアされている」等、納得できる要素ばかりです。これを参照すると、会社は個々の社員に要求を伝えるだけでなく、より個人にフィットしたアサインメントを考慮した方が良いですし、個人の働きぶりを認知・承認した方が良いということになります。また、そもそもチームを組成する段階で、チームに貢献できる要素を持ったメンバーを集める(これは均質性を重んじてきた日本社会が元来苦手なことだと思っています)ことが大事なのでしょう。
また、在宅勤務がエンゲージメントを高めるとして、週4日以上在宅勤務を行う社員では23%が高エンゲージメントであるのに対して、週3日以下の在宅勤務では15%程度、在宅勤務ゼロでは12%まで高エンゲージメント者の割合が低下することを報告しています。裁量性のある働き方ができるほど、エンゲージメントが高まりやすいということでしょう。在宅勤務は会社に対する遠心力(エンゲージメントを下げる要因)になりそうですが、実はそうならないという興味深い結果です。
またギグワーク*とエンゲージメントとの関係性についても調査しており、フルタイムの安定した仕事+パートタイム業務(又はギグワーク業務)の組合せで仕事をしている人は、他の組合せよりもエンゲージメントが高いとしています。フルタイムの仕事で安定した報酬や福利厚生を得る一方で、自身が情熱を傾けることのできる仕事をパートタイムで行っている姿が想像できます。これも裁量が一つのキーワードで、仕事選びに裁量のある人の方がエンゲージメントが高いことが推測できます。
※ギグワーク:企業が個人と雇用契約を結ばずに、単発や短時間の仕事を依頼する働き方
チームの一員であるという意識がエンゲージメントを高める
さて、この調査結果において、どの国、どの業態においても、共通してみられるエンゲージメント・ファクターが報告されています。「チームの一員である」と感じている社員は高エンゲージメントである比率が、そうでない社員に比べて5ポイント以上高いということです。在宅勤務者の方が高エンゲージメントであることを踏まえると、チームの一員であると感じるためには、物理的な距離は必ずしも問題になりそうにありません。
では、「チームの一員である」という感覚はどこから来て、かつどのようにつくることができるのでしょうか。実はチームのリーダーの役割が非常に重要になると見ています。
次回のコラムでは「チームの一員である」と感じさせる要素を紐解いていきます。