エンゲージメント向上 現地化に向けた一丁目一番地の課題
Authored by 井手 寛暁, 組織開発ダイレクター, パーソルコンサルティング 中国
エンゲージメント向上には戦略的な取組みが必要
今回から数回にわたり、エンゲージメントについて触れます。
現地化を成功裏に進め、継続的に次世代を担う人材を輩出するためには、当然ながらサクセッションプラン(後継者育成計画)に代表される人材育成施策は重要です。しかしながら、本質的に重要な一丁目一番地の課題はエンゲージメントの維持・向上であると考えます。社員の福利を上げるため、又は単純なリテンション施策のため、社員におもねる施策として、エンゲージメント施策は考えられがちですが、戦略的な組織施策の一環としてエンゲージメント維持・向上施策を実施することがまずは重要と考えます。
つまり、エンゲージメント向上こそ、戦略と言ってよいでしょう。この辺りは、ダイバーシティ(多様性)施策にも通じるものがあります。日本企業は、右に倣えでお仕着せ的に、女性「活用」、外国人「活用」の施策を形だけで行ってきたきらいがありますが、株主からの要望があるから行うのではなく、事業上の目的を達成するために、戦略的に行う必要性があり、本来はダイバーシティ施策こそ戦略なのです。
エンゲージメントが高い職場では管理者に情報が入りやすい
では、なぜエンゲージメント向上が戦略の遂行、現地化の推進を左右するのでしょうか。米国の調査会社ギャラップ社が世界中で行ったエンゲージメント調査の調査結果によると、統計的にエンゲージメントと経営上の様々な財務指標に正の相関がある。これは何度も報道されていることです。つまり、エンゲージメントを向上させることで、会社が儲かる可能性が高い、結果的に事業上の成功を継続的に得やすいことにつながります。
統計的なデータは確かにその通りだとしても、事業推進の現場でピンとくるような話があれば、エンゲージメント向上の戦略的な重要性がより伝わるのではないでしょうか。そうでもない限り、エンゲージメント施策は会社の年会や健康診断等のような福利厚生の提供に置き換えられてしまいます。(もちろん戦略的にエンゲージメントを向上させるための施策として、年会や健康診断等を行うことを否定するものではありません。)
エンゲージメントの高い職場と低い職場とを比較してみましょう。前提として、自身の目標・KPIを粛々と達成しようとする仕事遂行上の義務的な行動は同じだとします。エンゲージメントの高い職場では、自身の目標・KPIにコミットしているだけではなく、自身が所属している組織・チームの目標・KPIに関与している。非常に卑近な話をすれば、職場でゴミが落ちていれば拾う、職場のトイレが汚れていればビルの管理会社に伝えて掃除をしてもらう、そもそも職場の備品を家の備品と同様に扱う、というようなことがエンゲージメントなのです。社員のエ
ンゲージメントが高いと、働きやすい職場環境が生まれるだけでなく、組織・チームとしての業績へのコミットメントが上がり、社員一人ひとりが自己本位にならず自発的に協働してくれるのです。
これがあると、自発的に社員同士が協働してくれること以外にも、実は大きな利点が生まれます。管理職が必要な情報を得やすいのです。エンゲージメントが高い職場では、一人ひとりの経験が共有されやすいのです。必要な情報を得られず、現場の情報が大幅に不足した状態で、経営者や管理職が意思決定を行うと、会社がおかしな方向に進むことは想像に難くありません。現地化をした際に、事業の将来を任せるに足る人材が会社経営のハンドルを握ったとしても、現場や顧客の情報が不足していては、本来の力を発揮できないことは想像に難くありません。また、情報が不足する職場では、管理職が成功体験を得にくく、将来経営を担う管理職を継続的に輩出することが難しいことも容易に想像されます。現地化を持続させ、事業を成功裏に推進するために、社員エンゲージメントの向上が一丁目一番地の課題であると考える理由はここにあります。
今回は現地化におけるエンゲージメントの重要性についてお話ししました。次回は、少し遡る話となりますが、エンゲージメントの定義についてお話しします。